私たちの保育のなかで大事にしていることのひとつに「描く」ことがあります。ハイハイで手を開き、四つ這いや高這いで身体を支え、つかまり立ちや伝い歩きで握りバランスをとり、食べることでつまむ力を鍛えてきた手は、歩き始めることで自由になります。1歳を過ぎ歩行がしっかりしてきたら、クレヨンで四つ切の紙に描き始めます。はじめは、点々やかすかな横線などが描かれますが、子どもの身体の成長発達とともに、線が力強くなり、往復線、ぐるぐる、と描くようになっていきます。言葉がよく出始める頃には丸を描き出し、お友達がたくさんできて楽しくなってくると、丸がたくさんになります。3歳過ぎて散歩も少し遠くまで出かけたり、虫や動物などとのふれあいが出てくると、それらも絵に出てきます。大好きなもの、気になったこと、印象に残ったことなどなど描き始めます。遊びや雑巾がけ、布団干しや当番活動、たきぎ切りなど生活で鍛えられた手は、巧緻性を増します。
子どもの絵からは、子どもの世界や心や身体を知ることができます。子どもたちは、絵を描く事が大好きです。まだ文字を持たない幼児の心の表現・語り・伝えであると思います。絵はまた、言葉で充分に自己を表現したり思いを伝えたりできない子どもを理解したり、保育を探り充実させる手がかりにもなります。ですから、保育士は、いつでも好きなときに絵を描く保育環境を整えておくことを大事にします。
ただし、周囲の大人が、子どもの描いた絵を評価したり、親の過保護や過干渉がある場合、子ども自身の創造性が尊重されない場合には、またテレビやビデオゲームなど、子どもにとって強い刺激が多い場合にも、それらに心が縛られて絵を描きたがらない傾向が見受けられます。
年齢や発達段階に応じた楽しい遊びや生活、多様な経験、そして自分に対する自信と仲間への共感があるとき、子どもは絵を描きます。
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